みらい探訪

2017年5月掲載

第6回 バイオテクノロジーと連携した
コモンセンスAIが
“人生100年時代”を豊かに。

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イメージイラスト(Illustration:Noriyuki Goto)

日本ユニシス総合技術研究所の所長を務める羽田昭裕が、同研究所で進めている研究を切り口に数年後に実現するであろう世の中を紹介する「みらい探訪」。
今回のテーマは、「文脈が分かるAI(人工知能)」。
人間の共通知識や感覚を理解して進化するAIがバイオテクノロジーと連携し、“人生100年時代”を生きる人たちの知的活動を応援する未来を紹介します。

何ができて何ができないのか――可能性を探るため東大合格にチャレンジしたAI

実サービスへの応用が増えたことから、AIの注目度はどんどん高まっています。国立情報学研究所では、AIに何ができて何ができないのかを明らかにするため、2011年から「ロボットは東大に入れるか。」(略称:東ロボ)というプロジェクトを開始しました。2016年度の大学入試センター試験模試で、私たち日本ユニシスが挑戦したのは世界史Bでした。

結果は、77点(学生平均44.8点/偏差値66.3)。東ロボはこのほか、物理(得点62点/学生平均45.8点/偏差値59.0)や数学IA(同70点/54.4点/57.8)でも高得点を獲得しました。つまり、短文穴埋めや計算問題などのように、選択肢が限定されていたり、蓄積した知識や論理で対応できる科目は得意中の得意なのです。

一方、英語のリスニングは学生平均26.3点に対して14点(偏差値36.2)。音声認識はほぼ完璧ですが、東ロボは人間が経験から得るような常識がないため、人間なら簡単に分かる文章の背景にある想いや感情が分からず、正しい答えが導き出せません。

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会議の文脈を理解してスムーズな進行をサポートするコモンセンスAI

では、AIが文脈を理解したら、何ができるのでしょうか。その可能性を示す一例が、第5回で紹介した「知性をもった会議室」としてイトーキと共同研究を進めている『近未来オフィスプロジェクト』です。

このプロジェクトでは、私たちが研究開発しているコモンセンスAIを利用しています。コモンセンスAIとは、人間がコミュニケーションする前提として共有している常識を備えたAIのこと。会話を文脈の中で理解できる知性を備えたコモンセンスAIが“もう一人の会議参加者”となり、会議の進行を支援します。例えば、議論から言葉の重要度をリアルタイムに計測し、キーワードを抽出してタッチディスプレイが埋め込まれたテーブルに表示するのです。さらに参加者が気になる言葉に触れると、ニュースや研究論文など、議論に役立つとAIが判断した情報を会議室の壁面に投影し、参加者を刺激します。

また、参加者の発言量、内容、順番などを分析し、一人がしゃべりすぎていると判断したら「□□さんはどう思いますか?」と他の人の発言を促したり、話がループしていると判断したら会話が新たな展開へ進める情報を投影するなど、会議の進行をサポートします。

次のステップとして目指しているのは、進行状況の良し悪しを判断して、会議をゴールへ導くことです。また、参加者のパーソナル分析をして、キーワードに馴染みがないと判断した人にその言葉の解説を表示するなど、会議全体の進行は妨げず、参加者個人を支援する空間デザインも進めています。

このようにAIは今、人間の思考や判断を手助けする「文脈が分かるAI」をテーマに、さまざまな機関で研究が進められています。

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「動・考・心・身」で人を理解すれば
第2、第3の人生の選択肢をスムーズに提言できるように

「文脈が分かるAI」として、近未来オフィス以外にも実現してみたいことが「ヒトを探り、ヒトに即す」ITです。その1つが、人生の設計、再設計を応援する仕組み。“人生100年時代”が到来するといわれるなか、第2、第3の人生を築くことが理想とされるようになってきました。しかし一方、日本特有の問題として指摘されているのが、「何ができるのか、何をしたいのか」が分からない人が少なくないことです。そこで私たちは、ワクワクする第2、第3の人生を選び、満喫してもらうための手助けを、ITで実現したいと考えています。

ITが個々の「人に即す」ために「動(活動状況・体勢)」「考(論理・感情思考)」「心(心理状態・喜怒哀楽)」「身(健康・体調)」の4つの視点で「人を探る」ことを目指しています。残念ながら、現在はマイクやセンサ、ウェアラブルデバイスなどで収集した物理的なデータのみで相手を理解するしかないのです。つまり、画像などで捉えた「動」と、言語処理や機械学習などから導き出される「考」の2つしかありません。

視点を増やすために、私たちが注目しているのは山形県の「鶴岡メタボロームキャンパス」です。ここはバイオサイエンスパークの核となる施設で、現在、アミノ酸や糖など、体内にある数千種類の代謝物質を一斉に測定し解析する技術を利用した研究が進められています。私たちの取り組みは、この解析技術を活用して「心」「身」の状態を捉えたり、「動」「考」を知る既存の仕組みを一層掘り下げるなど、人を「動・考・心・身」の4要素から探り、理解することです。

これがうまくいけば、接する人への提言を今の気分や体調に合った言葉や表現で伝え、第2、第3の人生選びをよりスムーズに応援できるはずです。人にしっかり寄り添い、より良い社会の進展に貢献していくこと、それが私たちの目指すところです。

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